経営コンサルタントを紹介する「経営堂」のホームページでの
私の連載の第2回です。
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社長と専務の葛藤や、二代目の兄弟間の紛争など、
ファミリービジネスには、必ず、効率と感情が入り乱れる問題が起きる。
私自身、父や叔父たち、従弟たちと少なからず、
このような葛藤の狭間で苦しんだ時期があった。
社長である父の元で取締役として商品開発を担当していたときのことだ。
父が若いときに業界に先んじて発表し、大ヒットした商品があった。
父の最高傑作とも言える商品。過去の栄光というやつだ。
しかし、私が担当したときにはすでに市場は変わり、
売上は落ち込み、毎年赤字を出す商品になってしまっていた。
私は、責任者として、製造を中止すべき時期に来ていることは充分に分かっていた。
ところが、中止の通達を出すのに3ヶ月もかかってしまった。
自分の中で悶々としていた。
頭の中では「早く中止しろ」と声がするのだが、
なぜか体が行動を止める、そんな状態が続いた。
3ヶ月ほど経ったときに、ある出来事がきっかけできっぱりと中止を宣言することができたのだが、
このときの私が、まさにファミリービジネス特有のジレンマに陥っていたのだ。
このとき私の中に起きていたことを、
FFIのアドバイザーやファミリービジネス研究者が基本的なモデルとしている、
「スリー・サークル・モデル」を使って説明したい。
このモデルは図のようになる。
ビジネスに関わる人は、図の水色、ビジネスシステムの中に入り、
ファミリーのメンバーは、図の黄色、ファミリーシステムの中に入る。
株主として所有者の立場から会社に影響を与える人は、図の緑色の立場である。
一般のビジネスを論じるときは、ビジネスシステムと所有システムの2つが対象になるが、
ファミリービジネスを論じるには、さらにファミリーシステムが加わる。
ビジネスシステムは成果や効率を追及する場であり、
ファミリーシステムは愛情と感情が支配する場だ。
この相容れない価値観が入り乱れるのがファミリービジネスの特徴なのだ。
感情が支配する場も受け入れないことには、ファミリービジネスは上手くいかない。
ファミリービジネスの関係者がこの3つのシステムのどこに位置しているかによって、
物の見方、利害関係などが変わってくるため、
この図式がファミリービジネスを考えるときの基本的な枠組みとして使われている。
当時の私は3つの円が重なる中心にいた。
赤字を止めなければいけないというビジネスシステムの立場の自分と、
父親の良い息子として父親の誇りである商品を、
できるなら続けたいという自分が、葛藤を起こしていたのだ。
赤字の商品を続けることはダメ、赤字の商品をやめることもダメ、という、
罠にはまったような状態だった。
このように、ビジネスとファミリーの価値観の違いから罠にはまることが
ファミリービジネスには多い。
自分の中の葛藤だけではない。
社長であるオヤジと方針が違ってケンカになるケースも多いが、
もし相手が、オヤジではなく親族でもない普通の上司なら
そこまでのケンカになることも無いだろう。
ビジネス上の意見の違いが、親子の支配・被支配の関係と重複し、
家族としての感情が火に油を注ぐように、ケンカになる。
逆に、ビジネスの場にファミリーの強い信頼関係が重なると、非常に強い会社になる。
ある起業家は、社員に経理を任せるのが不安で営業も経理も自分でやっていたが、
弟が入社して安心して経理を任せるようになり、
営業に専念できるようになって業績が大きく伸びた、と語る。
また、優秀なファミリービジネスのファミリー内のコミュニケーションを調査した研究では、
ファミリーのコミュニケーションに、正直さ、率直さ、一貫性が高いという特徴が見られた。
ファミリービジネスの持つこの複雑な構造が、
非ファミリービジネスに比べて強みになり、また弱みともなる。
ファミリー独自の創業精神や価値観の尊重、
社員や取引先との世代を超えた長期的な関係、
継続への強い執念、強い結束、環境変化への適応力などは
ファミリービジネスに特徴的な強みであり、
身びいきや分家間の争いなどはファミリービジネスが陥りやすい問題である。
これらの研究から、
「ファミリー会議」の定期的な開催、
取締役会の活性化、
事業承継の計画的な実施などの
ファミリービジネスの強みを生かし、弱みを押さえるための方法論が開発されている。
冒頭の私の葛藤体験だが、
3ヶ月にわたって決断ができなかったある日、
父親と弟達とでゴルフを楽しむ機会を持った。
父は大のゴルフ好きで、3人の息子とゴルフするのは初めてのことだった。
そのときの父の嬉しそうな顔を今でも覚えている。
そのゴルフの翌日、私は何の抵抗も無く父の商品の中止を宣言した。
不思議な体験だった。
今まで自分を止めていた「良い息子でなければいけない」という思いは、
前日のゴルフで十分に満たされ、止めるものがなくなったのだと思う。
あとは純粋にビジネス上の決断をするだけだったのだ。
ビジネスにかかわるファミリーメンバーが陥る罠は、
ファミリーの価値観とビジネスの価値観の境界線が無くなっている時に起きる。
いわばビジネスの帽子とファミリーの帽子を同時にかぶっているようなものだ。
二つの帽子を同時にかぶったり、
話す親族と別の帽子をかぶって話をすると不都合が起きてくるのだ。
この帽子の使い分けが、ビジネスにかかわるファミリーメンバーの
コミュニケーションの質を高め、結果として、ビジネスが伸びていく。
この二つの帽子を、ファミリーメンバーがお互いにかぶり分けることが必須である。
ビジネスの場ではお互いにビジネスの帽子をかぶり、
ファミリーの場ではお互いにファミリーの帽子をかぶる。
家族と共に働くファミリービジネスには、独特の苦しみがある一方で、
それ以上に、非ファミリービジネスでは感じ得ない独特の喜びがあるものだ。
帽子を使い分ける習慣を身に付けることが、ファミリービジネスを強いものにしていく。
■法則その2■ ファミリービジネスは基本的に強い。
ファミリーとビジネスの帽子を使い分ける。
次回は「オヤジとの対決」についてお話ししたい。
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