経営コンサルタントを紹介する「経営堂」のホームページでの
私の連載の第3回です。
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後継者が集まる勉強会などで講演するとき、
「オヤジとの対決」というテーマはウケがいい。
ほとんどの後継者が、オヤジ(社長)とどう接したらよいか悩んでいるのだ。
私に相談に来る方も、オヤジとの問題で悩んでいる方は非常に多い。
切実な問題である。
私の場合も例外ではなかった。
父が社長で、私が専務だった頃、仕事をめぐって様々な意見の違いがあった。
普段はわりに穏やかに話し合う親子だったが、
互いに納得がいかないときには、大声で怒鳴りあうこともあった。
同じ車で通勤していたので、
車内での二人だけの会話は怒鳴りあいになることが多かった。
不思議なことに、怒鳴ったあと冷静になって考えると、
親父の考えがなんとなく分かる気がした。
怒鳴ることでお互いに気持ちが通じるのであれば、
これもひとつのコミュニケーションの方法だと考えるようにもなった。
怒鳴ることで理解が深まる場合はまだ良いが、
ベンチャー企業社長のA氏のケースは深刻だ。
A氏の実家は三代続く中堅企業で、A氏は父親(社長)を手伝うために家業に入った。
ところが父親と意見が合わず、大喧嘩のまま家業から退き、現在の会社を立ち上げた。
実家は弟が後を継いだ。
父親は健在だが、未だにA氏は父親と和解できず、弁護士を通して話すしかない。
A氏の悩みは、このままでは父親の葬式に出られない、というもの。
立ち上げた会社は順調に成長しているが、
この父親に対する思いが未だに彼を苦しめ、眠れない夜を過ごすことも多いという。
オヤジとの対決の結果、家業を離れるという選択肢を否定はしないが、
このような不幸な分かれ方は避けたいものだ。
少なくとも互いに合意の上で結論を出せるよう、
コミュニケーション能力を鍛える必要がある。
オヤジとのコミュニケーションにおいて、
ジェネレーションギャップの影響は大きい。
例えばある製品の売上が思わしくないとき、
オヤジは努力が足りないからだといい、
息子はマーケティング手法が間違っているからだという。
どちらの意見を採用するかで、対策も結果も変わってくる。
同じ現象(売上が計画を下回っている)を見ても、人によって受けとめ方は違う。
その受けとめ方は、その人のそれまでの経験によることが大きい。
オヤジの仕事での経験や多感な若い時代の世の中の価値観、
時代の感覚とういものは、息子の世代のそれとはかなり違うものだ。
双方が合意するためには、このギャップを埋める必要がある。
そのためには、
「同じ世界を見ていても、相手には全く違う風に見えている」、
という大前提を持つことから始めなければいけない。
このギャップを埋める努力無しに、いきなり方法論を戦わせても、
そもそも問題の見え方が違うのだから話が折り合うはずが無い。
コミュニケーション能力を高めるということは、 さらに知っておきたいことは、オヤジの人生の段階ごとに、 オヤジにとっては、子育てが終わってから息子に事業を渡して引退するまで、 1)子弟参加の段階(オヤジ40歳~50歳) 2)親子共同経営の段階(オヤジ50歳~60歳) 3)世代交代の段階(オヤジ60歳以上) 特に世代交代の段階は、 実際には、この認識は遅れがちになることが多く、 ・父親の死に対するファミリーの恐れ が「その時期に来ている」にもかかわらず、 オヤジにとって見れば、 世代交代の段階は、息子としては焦りを感じる時期である。 息子にとって、コミュニケーション能力はこの時期に最も重要だ。 親子共同経営の段階から世代交代の段階にかけて、 10年の計画を立て、双方合意の下にリーダーシップを移行していくことだ。 事業承継はリレー競技に似ている。 出会い頭にバトンを渡すのでなく、 ■法則その3■ オヤジと息子は意見が合わないもの。
相手が現実をどのように捉えているかを
「相手の目から見て、相手の身体で感じ、相手の言葉で聞いてみる」
能力を高めることとも言える。
こうすることで、より相手に通じる言葉で話し合うことができるようになる。
「仕事や息子とのかかわりに関して、基本的なスタンスが変わっていく」
ということだ。
大きく分けて3つの段階がある。
はたして息子を自社に入れるべきか、息子にその能力があるかと、
子供に対する自分自身の願望に直面する時期。
自分自身はこれから先の人生で夢をかなえることができるのかなど、
中年にさしかかり人生を見直す時期。
「残された時間には限りがある」というこれまでとは違った意識を持つ。
親の死、子供の独立による孤独感が高まる。
息子は責任ある立場に着く。
子供達はそれぞれ結婚してひとつのファミリーがファミリーネットワークに変わる。
仕事上の権力は最大レベルに達する一方、
息子世代の権威が高まり始め、新しい力学を模索する。
子が親を気遣う、といった現象も生まれてくる。
世代間の対立が目立ち始めるため、それを前向きなものにするために、
正直さ、率直さ、一貫性といった点でコミュニケーションの質の向上が課題になる。
自分の能力、体力の衰えを感じる。
引退への恐れ、息子に何が残せるか、世界に何が貢献できたか、
自分がいない会社はありえない、会社がない自分はありえない、
子供をコントロールし続けたい、
引退後の生活が想像できない、などの思いを持つ。
「やり残した仕事」の感覚が支配する。
ドラッカーが「偉大な経営者のための最後のテスト」とした段階。
すべてのファミリービジネスにとって最大の難関である。
一番難しい点は、オヤジ、息子を始め、
ファミリー全体で「その時期に来ている」という認識が持てるかどうかだ。
正しい時期にその認識を持つ必要がある、ということだ。
その要因として、オヤジ本人の抵抗に加え、ファミリーの思いやりが原因になる。
FFIの創設者のひとり、アイヴァン・ランズバーグ博士によると、
・夫が社長になれば自由がなくなるのではないかという息子の配偶者の恐れ
・貪欲だと思われないかという子供達の恐れ
・立場に差が生じることへの兄弟姉妹の恐れ
それを拒むオヤジに、ファミリーメンバーが加担することである。
ファミリーの誰もが「その時期に来ている」とは考えていない、
と信じ込む理由になってしまう。
他のファミリーメンバー以上に
日ごろのオヤジの仕事振りを見る機会が多い息子には、
話がしつこくなる、昔話が多くなる、頑固で怒りっぽくなるなど、
だんだん衰えていくオヤジの姿が見えるのだ。
世代交代の段階のオヤジには、世界がどのように見えているかを知ることだ。
オヤジとの対決はピークを迎える。
無益な対決を避け、建設的な対決にするために、
事業承継を計画的に行うことをお勧めしたい。
オヤジも息子も、毎日の業務の中で全力疾走している。
全力で走りながらバトンを渡して行くのだ。
いかに優秀な走者でもバトンは、練習しないとうまく渡せない。
計画的に少しずつ渡していくことが重要だ。
互いの世界観を学び、コミュニケーションの質を高め、
計画的にリーダーシップを移行する。
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