若い頃から尊敬していた、ある経営者のT氏に久しぶりにお会いしました。
T氏は、私の家業の大手得意先の創業者の孫に当たる方で、
私が始めて出会ったのは、彼が3代目の社長に就任し、活躍し始めた時です。
当時私は家業に入ってまもなくで、
T氏が社長として、職場の年長の親族を大切に扱い、
年長の親族から絶対的な信頼を得ている姿を見て感銘を受けました。
T氏の会社に訪問し、親族の役員の方や、従業員の方たちの姿を拝見すると、
「新社長はどんどん新しいことを始めるので、私たちは大変です。」といいながらも、
社長を信じて懸命に働けば、必ずよい結果が出せる、という強い信頼が感じられました。
自分が社長になったときには、彼のように社内の叔父から信頼を得られるのだろうか?
そのようなことを考え、私にとってはT氏はファミリービジネスの長としての
お手本のような存在でした。
久しぶりにお会いしたT氏から、彼のファミリーとのかかわりをお聞きしました。
彼は50歳になる頃には自分の引退時期を決め、まわりに宣言していました。
3人の息子さんがいますが、3人とも家業に入らないことを選択したため、
甥を後継者に指名しました。甥が家業でアルバイトする姿を見て、
後継者としての資質があることを見ていたのです。
定期的に行う親族の会合で、ファミリーの歴史を話し、後継者を発表し、
親族の合意を得ました。
後継者の甥の結婚式の夜、長男と後継者を呼んで、次のような話をしたそうです。
「私は○○年後に引退する。ファミリーの長は長男が、事業の長は甥が担って欲しい。
もし私が長男を会社に入れて欲しいと甥に頼む事があるならば、
そのときは肩書きの無い平社員として入社させること。
もし甥から長男に入社を頼むのであれば、
そのときの役職は甥の思うとおりに決めて欲しい。」
T氏には引退後の夢があります。
それは、地域社会の発展に貢献することです。
事業を越えた大きな夢を持つこと、
それが理想的な引退のカギになることかもしれません。
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