ファミリービジネスの力の源泉は、ファミリーにあります。
ファミリーがどのように機能しているのか、していなのか、また、健康的なファミリーと、そうでないファミリーがどのようなものかを知る必要があります。
1980年代半ば、米国ではファミリービジネスをテーマに、様々な分野から学者やコンサルタントたちが集まり、研究を始めました。経営学、組織論研究者、税務、法律関係に加えて、心理学者、精神分析医、人類学者などが参加し、ファミリービジネスを多方面の分野から総合的に捉えようとする運動でした。
これらの多面的な視野でファミリーの健康を考えるとき、ファミリー・セラピー(家族療法※)の視点が役に立ちます。ファミリー・セラピー(家族療法)とは、個人や家族の抱える様々な心理的・行動的な困難や問題を、家族という文脈の中で理解し、解決に向けた援助を行っていこうとする対人援助方法論の総称です。
家族の構成員の一人ひとりの行動に注目する以上に、家族をひとつの全体として見て、構成員の間の関係性のなかで個人をとらえようとするものです。例えば、依存症や不登校など、個人の問題とみなされていた出来事を、当人の何らかの原因があるから問題が起きたとする因果論、直線的な見方をするのではなく、家族成員間の一連の相互作用の一場面として見直す、システム的な、原因・結果が連鎖する円環的な視点で家族をとらえます。この観点から、ファミリー・セラピーでは、問題のある個人をIP(Identified Patient:とりあえずの患者)と呼びます。
円環的な視点では原因の探究をしない、悪者探しをしないこともファミリー・セラピーの特徴のひとつです。家族成員の病気や性格などの個人的な問題が原因で問題が起きているという考え方はしないので、誰かの非をとがめるというものではありません。
不登校の子供をなんとか登校させたいとセラピーに連れていった夫婦が、家でも話し合いを始め、夫婦仲が持ち直したことで、子供が登校できるようになったケースなども数多くあるようです。身体の経絡のツボにお灸をすえるなどもそうですが、直接患部に手を加える代わりに、別の場所からのアプローチで全体の調整を行うことで、家族全体が健康体をとりもどしていくというイメージです。
家族はひとつの生き物のようであり、そのメンバーが無意識に作り出す力学について考えさせられます。
※『家族療法テキストブック』(日本家族研究・家族療法学会 金剛出版2013)
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