ファミリー性(ファミリネス)の事例として、明太子の発祥の会社、博多の株式会社ふくやをご紹介します。
従業員数690名、業界一の売り上げ(平成27年度149億円)をあげる会社です。戦後、釜山から引き揚げてきた創業者夫妻(川原俊夫氏・千鶴子氏)は博多・中州に小さな食料品店を開きます。多岐にわたる食料品を扱いましたが、もっともお客様に喜んでもらえるものを売りたい、と考えた俊夫氏は、釜山にいるころに食べていた「タラコのキムチ」を思い出し、日本人の口に合う新しい味として「明太子」を作り、販売をはじめました。しかし、販売当初はまったく売れませんでした。
俊夫氏は博多の人たちに味を評価してもらいながら、10年かけて味の改良を重ね、博多の復興と共にふくやの明太子も徐々に浸透していきました。その結果、昭和50年に新幹線が博多まで開通するころには、明太子は博多名産として全国に知られるようにまでなりました。
地元の出身者ではない川原夫妻は、中州に受け入れられ、博多に育てられた感謝の気持ちを忘れたくないと、博多のために尽くすことを次の世代に伝えます。ふくやにできる一番の恩返しは、明太子を通じて博多のために貢献すること。そのため、ふくやは代々博多の祭りを支援しています。「博多どんたく」や「博多祇園山笠」などの博多の伝統行事や祭りに、会社として資金的な支援をするだけでなく、経営層をはじめ社員も率先して参加しています。中には、ふくや無しでは存続できなかった祭りもあるほどです。
ふくやは、しっかりした理念を持つ会社です。存続できる会社にすること、税金を納めること、雇用を守ること、残りのお金は地域のために使うこと。社員教育にも積極的で「どこでも通用する人材を育てる」という想いから、社員研修を活発に行っており、販売士検定、サービス接遇検定、簿記検定など、社内にはいくつもの資格を持つ社員が大勢います。自己啓発のための研修は、勤務時間でも許されています。
このような会社なので、ふくやで働きたいという人たちが多く、優秀な人材を採用することができるのです。創業以来ファミリーが大切にしてきた地元への感謝と貢献の心が会社に根付き、優秀な人材をもたらし、業績につながっています。
このようにお話すると、利益追求に対する厳しさを持たないように思いますが、実は逆で、社長は社員に対して厳しく利益追求をします。社員はその利益が何に使われるかをよく理解しているため、真剣に利益を追求できるのです。
創業家の理念が会社の文化となり、それが競争力につながる好例です。
※「ふくやと博多と明太子」ふくやパンフレット参照
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