現在の同族企業を、『文明としてのイエ社会』(村上泰亮ほか著 中央公論社 1979)を参考に考えてみると、日本の歴史の発展パターンを、二つの異なる社会・集団の組織原則の進化、併存、交代の過程としてとらえることができます。
第1の組織原則は、「ウジ社会」と呼ばれる集団形成の原則です。血縁の原則に則った集団形成です。共通の祖先から父系または母系をたどる子孫の集団で、共通の祖先は想像上のもの、または神話上のものであってもよいものです。古代日本では天皇ウジを中心とするウジ連合体が国家を形成しました。
第2の組織原則は、「イエ社会」と呼ばれる集団形成の原則です。11世紀の日本の辺境、東国の地で生まれた開発領主のイエから始まり、室町、戦国時代の大名のイエに発展する波動です。イエとは、生活を共にする共同体に端を発するものです。「イエ」は家族とは異なるものです。家族は必ず生活を共にするとは限りません。江戸時代の武士の家や現代の核家族では、消費は共にするけれども生産を共にするという性格はほとんど失われています。
イエという言葉は家族に近い使われ方をしていますが、これは明治民法が武士の家族形態を摸倣して「家」という概念を導入したために起きたことで、家は明治民法によるイエのひとつの派生体に過ぎないものと考えます。
イエ社会の文化的な特徴として「間柄主義」が挙げられます。これは個人主義に相対する概念です。個人主義は社会を個人の要素に分解したのちに個人間の関係として社会のしくみや関係を作っていくという文化で、欧米流のものです。これに対して間柄主義は、個人ではなく個人の関係の場としての「間柄」に着目する文化で、今日の日本にもこの思考、行動様式は脈々と生きています。
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