ファミリービジネスのメンバー、特に後継者は、結婚前に婚約者と話し合っておくべきことがある。
それは、生活上の義務,資産の取り扱い,離婚の条件などにかんする取り決めである。
アメリカではプレナップ(Prenuptial Agreement:婚前契約)と呼ばれ、よく行われるものだ。
特に大きな資産を持つファミリービジネス関係者にとって、
結婚が必ずしも人生の最後まで続くものではなくなった今、
プレナップは重要なものである。
弁護士が入って起案し、法的な拘束力を伴うものになる。
日本では昔は結婚は家と家とが行うものであり、このような取り決めがなくても
無言の了解事項があったのだが、
最近は本人どおしだけの結婚に取って代わってきたため、
弁護士に依頼した契約書までにすることは無いが、
あえて言葉に出して相手と、そして相手の両親と確認しておくことが望ましい。
結婚前の二人にとって、このような内容を話し合うことは、困難を伴うことがある。
結婚前の情熱的な二人にとって、離婚を前提にした内容を話し合わなければならないことも
含まれているためだ。
アメリカでプレナップを専門にコンサルティングを行う、ジュディ・バーバー氏は、
いくつかのポイントをアドバイスしている。
(Family Business Review vol 10, no2, Summer 1997)
- 子供が小さいうちに家憲を作り、そこに婚前契約に関する規定を盛り込む。
これによって、婚約者個人に対する問題としてではなく、家の伝統として話し合うことができるようになる。 - 子供の頃からそのことを知らされていれば、恋愛対象の相手に対し、家憲を尊重し、自分のファミリーと付き合っていけるか、という観点で結婚を考えることができる。
- 婚前契約を相手に持ちかけるときまでには、本人はビジネスについてや家族の歴史や伝統についてよく理解しておくのが良い。これによって、個人的な問題としてではなく、ファミリーやビジネスの問題として婚前契約を扱うことができる。
- 婚前契約について話し合うときには、当事者は互いにこのことについてどう感じているかを相手に率直に伝える。「この話をするのは少し怖いのだけれど…」といった具合に。
- この困難なプロセスを成し遂げたときには、婚約者の間には深い絆が作られ、強いカップルになる。
- 富裕層の相手と結婚する人に対するアドバイスとしては、
1)富裕の相手と結婚する自分の気持ちや心配事を率直に相手に伝えること。
2)自分はここでサバイバルできるのか? 妻のファミリービジネスに対する責任感を受け入れながら、自分の自己実現は可能なのか?と自分に問うこと。
3)財産が相手のファミリーのものなら、自分の財産というものはどうなるのか?自分の自立は?
これらは愛する相手とその家族を前にして自問することは難しいことだが、クリアにしておかなければいけないことだ。 - 婚前契約は、合意であり、二人の間のコミットメントだ。結婚前にはなかったものを二人で手に入れることになる。それに意識を向けていくことが大切。
少なくとも言葉に出して文書にまとめることができる程度には具体的に話し合い、
当事者間で納得できるものにしておくことをお勧めする。
結婚する相手が後継者になる可能性はあるのかないのか、
女性後継者と結婚する男性はどちらの家の人になるのか、
誰が先祖の墓を守るのか、など、
明確にしておくべき要件は多い。
まず当人同士が合意、納得することが大前提だが、
どちらかのファミリーから反対が出た場合には、
相手の立場に立って誠心誠意、反対者の話を聞き、誠実にお願いし、
それでも解決しなければ、
家の当主が相手のところに出向き、頭を下げてお願いし、
心からの誠意を伝えることが大切だと思う。
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